しつこいようですが、一部の酔狂な読者諸氏の熱望にお応えせんがため連載を続けます。




20133月某日


件名: 立教三人会、その後


小原君、

先ほどはどうも。無事にご帰宅されましたか。中々、行き届かぬおもてなしで相すみません。

でもつくづく皆さん、この歳までよく生きてきたな、と思わずにもいられません。

仮眠後、サッカーとか観てます。

明日からはまたぞろ、翻訳地獄です。

小原君も仕事、がんばってください。


S



20134月某日


件名:七日(仏×)


小原君、
おはようございます。

今週末は予定がどんどん変わり、今日は実家へ行くことになってしまいました。
相変わらず、早起きで五時頃、煙草を買いがてら周辺を散歩してきました。
嵐の夜が明け、春めいた青空のもと、何ゆえか切ない気持ちに襲われています。
ぼくは実際、モローやルドンを知らなかった高校生の頃、学校や目黒の図書館でクロード・モネの画集をよく眺めていました。人口に膾炙され過ぎてはいますが、「印象 - 日の出」や「日傘をさす女」にはやはり感動していました。
あっ、その頃はイギリスのターナーにも心酔していました。朦朧としたタブローが訴えかけてくるものは少なくはありませんでした。
その後はまったく印象派などとは離れますが、若き日の凡庸な感性を物語るエピソードとしてお伝えしておきます。

アメリカはともかく、北は東京くらいには核ミサイルを打ち込んできそうですね。そうなると帝都は瞬間的に焦土と化しますね。生き残れるかどうかは微妙ですね。

A quarante-huitième printemps... Que j'aime quelqu'un (une) ou que je sois aimé par quelqu'un (une)...
La vie doit toujours être comme ça ? non ?

S

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件名:日傘をさす女


S


こんにちは。

今日は風が強いですが、暖かく、空も綺麗な青です。

ああ、今頃から一ヶ月位が一年で一番良い季節(過ごしやすいという意味で)だなあ、などと感じています。



しかし、何でも一番良い(適度な)時期というものは短いものです。

だから余計有難く感じるのでしょうが。


僕も中学か高校の頃、何故かモネの「日傘をさす女」が好きで、どこか雑誌か何かから切り取ってきたその絵を安物の額に入れて、一枚だけ自分の部屋に飾っていた記憶があります。


ちょうど気候も良いので、これから平日の休みの日には

美術館巡りでもしようかなあ、と思っていたところです。


では今から渋谷に出かけます。

ご両親に宜しくお伝えください。


小原


20134月某日


件名:八日(大安)


小原君、こんばんは。


「日傘をさす女」は何ゆえ、青年の心を捉えたんでしょうかね。

平日の美術館めぐり、いいですね。是非お供したいところですが、美術館ばかりは一人の方が十全に楽しめそうな気もします。


送って頂いた内田百閒さんの言葉、

「永年杯に親しんでる癖に、酒の上の我儘が取れないのだと自分でも気がついてゐるが、中々なおらないやうである」

には多少共感します。


「寝るだけ寝なければ仕事が出来ないし、寝たいだけ寝てゐたら仕事の時間がなくなる」

も好きです。


S

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件名:八重桜


S


こんばんは。

今日は仕事が休み。昼間からワインを飲んで過ごしました。

仕事を抱えているS君には申し訳ないのですが、今日も初夏を思わせるとても良い陽気なので庭に出て、いまちょうど満開の隣家の八重桜を眺めながら、独り花見を楽しみました。


ここぞとばかりに、いっせいに咲き誇る桜も良いですが、やはり今頃になって優雅にのんびりと咲く遅咲き桜のほうが心癒されます。

しかし今日は実に怠惰な一日を過ごしてしまいました。明日は朝から仕事です。まあ、ぼちぼちゆっくりやりますよ。


では、おやすみなさい。


小原


20134月某日


小原君、


遅咲きの櫻。そこに思いを寄せるのは小原君らしい感じがしました。


もうこの季節になると、五時半からラジオは馬鹿みたいな野球になるので、CD でシャンソン大会です。まだ今日の自分に課したノルマは半分しか終わっていません。

おそらく、これから九時頃まではかかると思います。Johnny Halliday の歌声が切ないです。


S








今日で七月も終わりです。

今月十日はあなたの三回目の命日でした。

そこで、いま天国にいるあなたにお手紙を差し上げようと思います。



あなたと会ったのは、たしか八年前でした。

季節は忘れましたが、たしか秋頃だったような気がします。

場所は、新宿歌舞伎町の職安通りに近いところにある、Pというバーでした。

当時その店のマスターKさんと知り合いだった私と私の友人のHは、ある夜、いつものように店のドアを開けました。



マスターに軽く挨拶してカウンターに座り、ビールを飲んでいると、一人の男が上機嫌で威勢のいい声を張り上げて、店の奥にあるステージに立って歌い始めました。

眩いスポットライトを浴びて歌っていたのが、あなたでした。

マスターのKさんとあなたが旧知の仲だということは知っていたので、あまり驚きはしませんでしたが、世間ではかなりの有名人で、テレビでしか観たことのないあなたが、今、私の目の前で歌を歌っているということに、少なからず感動を覚えました。

あなたは、ある有名な若い女優さんと一緒でしたね。

わたしは、美人で背のすらっとしたその女優さんのことは知ってはいましたが、彼女よりも、あなたと出会えたことがとても嬉しく感じられました。



あなたは矢沢永吉の「Somebody’s Night」という曲がお気に入りらしく、何度も繰り返し歌っていましたね。

そのうち、あなたは歌の途中で突然私に向かって手招きし、「おい、おまえもここにきて一緒に歌えよ!」と言いました。

私は少し戸惑いましたが、すぐに席を立ってステージに行き、あなたと一緒に「Somebody’s Night」を熱唱しました。

あなたは私と肩を組んで、それは楽しそうに歌っていました。



歌い終わるとあなたは、「おまえ、なかなか歌うめえじゃねえか! よし、もう一曲一緒にうたおうぜ!」と言って、次の曲を歌い始めました。

その歌が何だったのかは覚えていませんが、私の知らない曲だったので、なんとなく調子を合わせて勢いだけであなたと一緒に歌いました。

私とHも、トランザムの「あゝ青春」(吉田拓郎作曲)という曲を一曲歌いました。



そのうちあなたは歌うのを止めて席に戻ってマスターと談笑していましたが、突然私とHの方を向いて、「おい、おまえらヤクザだろ?」と、からかい半分のように言いました。

その後も時々思い出したように周りの客に、私とHを指さして、「あのさあ、あいつらヤクザなんだよ。なあ、そうだろ」と、まるで子どもがふざけているように、笑いながら言っていましたね。

私とHは、「やめてくださいよー。違いますよー」と笑っていましたが、そう言うとあなたは、ますます大きな声で、「いやあ、おまえらはヤクザだ。間違いない」と繰り返し言うのでした。

確かに二人とも真っ黒なスーツに身をかためており、しかも、当時ある無名の歌手のコンサート(興業)などプロデュース業をしていて、歌舞伎町のこんなディープな店に入り浸っている、と聞けば、あなたでなくても、「こいつらどう見たってカタギじゃないな」と思ったかもしれません。



そうこうしているうちに、あなたは私とHの側にきてこうささやきました。

「なんか飽きちゃったからさあ、どっか他の店に歌いにいこうぜ」

私とHはもちろん、「いいっすよ、行きましょう」と笑いながら答えました。

するとあなたは「Kさん、お会計!」と言って金を払い、さっさと店の外へと出ていってしまいました。



私とHはあなたの後を追いかけるように小走りに店の外へ、歌舞伎町のネオン街へ飛び出して行きました。

あなたは肩で風をきって歩きながら、「よし、どこ行く? おまえらどっかいい店知ってるか?」と訊くので、私たちは、「いや、特に。どこでもいいっすよ」と答えました。

あなたは、「じゃあ赤羽へ行こうぜ。赤羽に俺の行きつけの店があるんだ」と言いました。続けて、あなたはポツリと言いました。「あのよー、俺、いちおう世間ではけっこう有名人なんだけど、おまえら俺のこと知ってる?」と。

私とHがあっけらかんと、「もちろん、知ってますよ」と言うと、あなたはニッコリと笑いながら、「そうかー、てっきりおまえら俺のこと知らねえんじゃないかな、と思ってよ」と言いました。



時間は深夜一時頃だったでしょうか。

私たち三人は、大通りに出てタクシーを拾って乗り込みました。するとあなたはいきなり携帯電話を取り出し、どこかに電話をかけてこう言いました。

「おう、俺だけどさ。今いつもの店に向かってるから、先に行って、今から言う曲を入れといてくれ。えっと、一曲目は○○、それからー・・・」、あなたは隣に座る私に向かって、「おう、おめえは一曲目、何歌うんだ?」と訊きました。

私が、「えっと、じゃあ沢田研二のカサブランカ・デンディーを」と言うと、あなたはすぐさま電話の向こうの相手に、「二曲目は、沢田研二のカサブランカ・デンディーだ」と伝えました。そして今度はHに向かって、「おめえの一曲目はなんだ?」と訊きました。私とHは矢継ぎ早に、「二曲目はなんだ?」「三曲目はなんだ?」と訊かれ、あなたは合計九曲の歌を電話口の向こうの相手に伝えました。



その後タクシーの中でどんな話をしたかは憶えていませんが、あなたはずっと陽気に話し続けていました。



タクシーが赤羽に着くと、あなたは「おう、ここだここだ」と言って、ある一軒の店を指さしました。

店の看板には大きく「ビッグ・エコー」と書かれていました。

私は、「えっ、わざわざ歌舞伎町から赤羽までタクシー飛ばしてきたのに、ビッグ・エコー?」と少し戸惑いましたが、なんだかあなたらしいなあ、と思いました。

店に入ると、店員がうやうやしく、「お待ちしておりました。こちらでございます」と言って、予約してあった部屋へ案内してくれました。

そこは、畳三十敷以上はあろうかというかなり広いVIPルーム(パーティールーム?)でした。

見ると、部屋の片隅にうら若い女性がポツンと立っていて、軽く会釈をしました。

女性はあなたの愛犬も連れてきていました。

あなたはとても犬が好きだったようですね。

あなたがその女性に、「さっき言った曲、全部入れといたか?」と訊くと、彼女は「はい」とだけ答えて静かに微笑んでいました。

あなたは、「ここが俺がいつも歌いにきてる部屋なんだ」と言って、すぐさま、「さあ、歌おうぜ!」と言って歌い始めました。

私もHも、タクシーの中で予約されていた三曲を熱唱し、それを歌い終わるやいなや、あなたに「どんどん次の曲入れろよ」と言われ、何を歌ったか忘れてしまいましたが、次々とあなたの前で十八番を披露しました。酒もガンガン飲みました。

あなたは一曲歌い終わるごとに、「いいねえー」と言いながら、自分もいろんな曲をとても楽しげに熱唱していました。



それから34時間経ったでしょうか。あなたは、「よし、そろそろ帰ろうぜ」と言って、先頭に立って店の外に出ていき、私とHはまたあなたの後を追いかけていきました。

店の外は静かで周囲には人一人いませんでした。

路上であなたは、「いやあ、今日は楽しかったな! また行こうぜ」と言い、私とHは、「今日はありがとうございました。俺らも楽しかったです」と言い、握手をしました。

するとあなたはおもむろにズボンのポケットに手を突っ込み、裸で入れていた一万円札数枚を無造作に掴みだして私とHに、「これ少ないけど、小遣いだ」、と言って手渡そうとしました。

私とHは恐縮して、「いやあ、いいですよ」と言いましたが、あなたは、「いいから取っとけよ。金ならあんだからさあ」と言って、笑顔で我々二人にその万札を握らせました。

私とHは顔を見合わせて苦笑しながら、「じゃあ、遠慮なく頂いときます。あざっす!」と言って受け取りました。



あなたは、「じゃあ、またな!」と手を振ってお供の女性とともに、また肩で風切るように、闇夜に消えていきました。



私とHはまたタクシーに乗って、歌舞伎町のKさんの店へと戻りました。

あなたの勢いに押されて、二人とも持っていたカバンをKさんの店に置いてきてしまったからでした。



次の日、あなたはマスターのところへ電話してこう言ったそうですね。

「昨日はあいつらを無理やり引きずり回して、悪いことしちゃったかなあ・・・。謝っといてくれよ」と。

あなたは私たちのことを、最後まで本当にヤクザだと思っていたみたいですね。




以上であなたと会ったときの思い出話はおしまいです。

しかし、あれが、あなたとの最初で最後の出会いだったとは。

もう一度一緒に飲んで歌いたかったですが、今となっては、まさに一期一会。あの晩の楽しい思い出は、一生私の心から消え去ることはないでしょう。



あなたは生前、こんなことを言っていましたね。

友達になれる奴って年間五人ぐらいだと思うんだよね。一緒に飲めるっていうのは。そうすると、六十年の人生で三百人しか友達になれないということなんだな。その三百人だけからは「あいつはインチキな奴じゃなかった」と思われたいね。それだけだね。それが俺を支えてるってのがあるね」



私もあなたと友達になれたでしょうか。

あなたはどう思っていたか分かりませんが、あの晩、あの瞬間、確かに私たちとあなたは、地位や立場や年齢や国籍を越えて、友達になった気がします。たいへん不遜なことを申し上げて恐縮ですが、そんな気がします。

そして、実際に会って、話して、飲んで歌ったあなたは、決してインチキな人ではありませんでした。

あなたの生み出した数多くの作品に込められた熱い思いと、あなたという人間の持つ魅力の間にはまったくズレがなかったように思います。



また、あなたの遺書にあった、「思えば恥の多い人生でございました」という言葉は、あなたという人間の本質を表しているなあ、と思ってなりません。



あなたは生前、世間では少なからず“ちょっと怖い人”というイメージがありましたが、実際に会ってみて感じたことは、本当はとても照れ屋な方だったのだと思います。

私も残りの人生を、少しでもあなたのように、自分らしく、真っ直ぐに生き、自分の死後、数人の友達からだけでもいいので、「あいつはちょっといいかげんな男だったけど、決してインチキな奴じゃあなかったね」と言われたいと思っています。



では、いつかまた一緒に歌える日まで。



2013731
偉大なる天才
つかこうへい さんへ

20133月某日



件名:廿日(春分の日)



小原君、

こんにちは。



麗らかなお彼岸の中日ですが、如何お過ごしですか。

ぼくはいつものように AM ラジオが流れる室内で一人、相当数の煙草を煙りにしながら、キーボードを叩いています。今日の予定は約 7000 ワードの翻訳チェック。英和なのですが、オリジナルにしばしば仏語・独語が混入しており、往生してます。

韓国ドラマも観たいし、一般的な休日にこんな仕事をしたところで、いくらにもならないことはわかってますが、やり始めたら止まりません。なぜならぼくは馬車馬だから。



S

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S



お疲れさまです。

こんなに良いお天気で世間は休日なのにお仕事とは大変ですね。

心中お察しいたします。

ぼくは今日は比較的のんびりしているのですが、始終子供にまとわれ付かれて閉口しています。今日中に、来週発表するプレゼン資料を作らなければいけないのに、いっこうにはかどりません。



いろいろ話したいこともあるので、また後でゆっくりメールします。



小原

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小原君、



ご返信、ありがとうございます。

こちらこそ、そのまとわれつかれ加減、お察しいたします。

昨夜、少なくとも一日一食はと思い、無理して食べた鯖の押し寿司がいけなかつたのか、今日は朝からお腹が壊れ気味です。冷蔵庫に多少、素材はありますが、もう無理するのはやめます(調子がよければ、最近ですと細かく刻んだプチトマトを和えたひき割り納豆を、ギリシャ産のオリーブオイル(これが絶品)で、昆布茶で下味をつけたパスタと炒めるといったひと皿を作っています)。


J'attends ton message.



S

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件名:slave



S



お疲れさまです。



「馬車馬のように働く」は、英訳すると、

work like a horse

horseは、[slave] とも言われるようです。



ぼくもslaveにならないといけないのでしょうか?



ではそろそろ床に就きます。



BONNE NUIT



小原

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小原君、



春嵐。

風が強いです。本来なら今宵は七日夜ですが、さしもの月光部屋のベランダからも雲混じりの夜空にそうした月影は今、望めません。



A demain !



S



20133月某日



件名:五五日(花曇り)



小原君、

おはようございます。



例によって郊外からの帰りの車中です。

月並みな質問ですが、週末はお花見に行かれましたか。昨日などはことによろしきお花見日和でしたから、お団子と緑茶を携えて、とある公園へ出かけてきました。

人の眼を欺くのは、あたかも無窮の運動の如き自然の諸相。



S

20133月某日



件名:ベルト



S



おはようございます。今朝は暖かいです。

ご気分は如何ですか?



さて、先程家を出る前に身支度をしていたら、長年愛用していたベルトのバックル部分の留め金がはずれて、パチンと切れてしまいました。

ずっと、これ一本を使っており、皮も大分へたってきていたので、どうやら寿命のようです。



しかしこの事象は、何か良くないことの暗示なのか、それともこれまでの悪しき呪縛から解き放れることを意味するのか。



たぶん後者でしょう。いや、おそらくそうです。いや絶対そうに違いありません。そうであって欲しい。神様お願いです、そういう事にしてください!



という事で、ベルトを新調しなければなりません。

S君、要らない(使ってない)ベルトとか持ってないですよねえ?



小原

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小原君、

おはようございます。



気分というか、寝不足です。

この土日は、ちょっとだけ仕事をしたり、イ・ビョンホンの「白夜」全二十話をまとめて観たり、実家へ寄ったり、泉鏡花を読んだりしていたからです。

ベルト、ご不便ですね。でもこのアイテムは地味ですが、お洒落の要のひとつなので、ご自分でお選びになった方がよいと思います(ぼくのは半分はレディースですし…)。

今夕のことについては、また連絡します。



S



20133月某日



件名:馬車馬



小原君、



「馬車馬のように~」という表現がありますが、その馬車馬の楽しみというか、喜びは一体、どこにあるのでしょう。



厩舎の藁の上での束の間の休息?優しい御者が首を撫でながら与えてくれる人参?次世代を実現するためのマウント姿勢?

それらもある程度はそうなのでしょうが、おそらく一番の喜びは走るということ、それ自体かも知れません。走る。全速力で駆け抜ける。それこそが、彼が最も如実に生きている証であるのですから。



S

小原君、


箴言2:

冬の夜、二匹の針ネズミは寒いので、体を寄せ合うのですが、お互いの針が相手を刺します。離れると寒く、近づくと痛い。

見えませんが、人間にも彼らのように針が体中に生えているのかも知れません。


S

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S君


おはようございます。



今朝も少し肌寒いですが、空は何となく春めいています。

さて、二つの箴言拝読しました。どちらもなかなか奥深い味わいがあります。しかしS君の文章は僕にはない独特のリズムと調子があり、語彙の使い方も実に的確です。

谷崎潤一郎が『文章読本』の中で、「ここで、どの言葉を使おうかと迷ったとき、そこに収まる言葉は世の中にたった一つしかない」というようなことを言っていましたが、それを実感させてくれるのがS君の文章です。その表現力、僕なぞは足元にも及びません。


ということで、自己突っ込みの芸風はもう飽きたので、今日は人を誉める日にします。


小原

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件名:三五日大安



小原君、



そうですね。春… 最近は、菜の花がマイブームです。それをシジミかアサリの佃煮と和えて和風だしでおひたしにしています。



二つ目の箴言は結構も整っておらず、結果、フランス語にも訳せず、どうかと思いますが、お誉めのお言葉、ありがとうございます。まれに、本当にたまに、自分の文章がイケてると思わないこともありません。そういう能天気で自画自讃的なところがなければ、翻訳とはいえ、こんな売文業を続けてはいられないのでしょう。

そして例の800ワード。まだやってます。面白いもので、翻訳は一回、つまづくと、とことん難航します。大した航海でもないのですが、いつ帰港できるのでしょうか、ぼくの船は…



小原君は順調ですか。


S




20133月某日



小原君、



また、朝です。

さっき、鏡を見たら、悲愴な面持ちになっていました。

昨日は浅利の佃煮しか食していないということに思い至りました。

風が強いです。

Le vent de printemps souffle.



S

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S



今朝は寒いです。

昨日、大仕事を一つ終えたので、割と気分が良いです。

しかしまあ、何事も余り楽観的にならず、悲観的にならず、平常心で粛々と、しぶとくしたたかに、淡々と慎ましく、サラリサラリと、水が流れる如く、生きてゆきたいものです。(本気かよ!?



が、こうして美辞麗句を並び立ててみると、何だか相田みつをか武者小路か、宮沢賢治にでもなったような気がして、少し気分が落ち着きます。

今日は自己突っ込みの日にします。



小原

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小原君、

おはようございます。



かなり笑いました、自己突っ込み!

文章には当然、ユーモアのセンスも必須です。それについては小原君は満点かも知れません。

暗いトーンで、辛辣かつやや古風な文言ばかりを綴っている自分を反省しました。

今日は800ワードが何時間で翻訳できるか、のタイムレースにしてみます。

Allez, allez !



S

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件名:大人の流儀



S

お疲れさまです。



駄文を誉めて頂き、ありがとうございます。

S君は本当に誉め上手ですね。



昔から、僕の理想とする文章スタイルは、「軽妙洒脱で、即興っぽくて、思わずクスッと笑えつつ、しかも何となくその背後(行間)に真理のようなものが見え隠れしている」 という感じなのですが(ってお前、いっぱしの作家気取りかよっ!)



最近、それを忘れかけていたので、またその路線を取り戻そうかな、などと思いました。



話は変わりますが、本日嬉しいニュースが飛び込んできました。

まあ少し複雑な気分ですが、心の中でガッツポーズです。



なんか今日は朝からいいことがあるような気がしていました。



しかし、こんな時こそ浮かれずに、淡々と過ごすのが大人の男の流儀かな、と(って、お前、人生の達人気取りの伊集院静かよっ!)



もう少しで家に着きます。



小原



20133月某日



件名:Les nuits blanches



小原君、



思いつきの箴言:



人は美しいものを好きになりがちです。でもその美しさをロジカルに考えるのはやめましょう。

(On tend A aimer la beautE. Mais ne pensons plus A cette beautE logiquement.)



今、観ているドラマ、「白夜」の悲愴感たるや、先日お伝えした「ごめん、愛してる」の比ではありません。

前半の舞台は米ソ冷戦中のモスクワ。モスクワの空が必要以上に青いのも悲しみを誘います。単なるラブストーリーではなく、今以て問題となっている南北朝鮮の関係がテーマなので、かなり深刻です。哀切な挿入曲はほぼすべてマイナー調。主要な女優陣が皆、美人であるというのが、この状況悲劇を支えるのにまさにうってつけです。



大学時代、仏文科の友人でウォッカを飲んで酔うと誰かれ構わずに、ロシア語で手紙を書き送る者がいました。文字すら読めないその手紙には、Voulez-vous le traduire en franCais ? と返信するのが常でした。

イ・ビョンホンも結構、流暢にロシア語を話しています。で、今般、少しロシア語を勉強したくなりました。明治期のインテリゲンチャー(坪内逍遙とか)みたいに…



S

20133月某日



件名:夢



S


こんにちは。お疲れさまです。

今週の調子はいかがですか?


さて、昨晩、ちょっと面白い夢を見たので、添付します。

なんだか統合失調症的な夢です。


まあ、こんなものを読まされてもリアクションに困ると思いますので、

暇つぶしとして、適当に流してください。



ぼくは、「夢占い」とか、フロイト、ユングに対してはやや懐疑的なので、この夢も特に意味はないと思います。



小原

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小原君、
おはようございます。

今週も相変わらずだらだらいつ終わるとも知れぬ 5 万ワードの翻訳チェックに時間を費やしています。月曜日には出社し、ミーティング。その後、新宿の韓国料理屋で食事をしましたが、ろくすっぽ食べられませんでした。

夢のファイル、拝読しました。あたかも散文詩のようです。ぼくならその夢をたよりにもっと作り込みますが、小原君の文章は、ただただその風景をよく伝えていますね。

やや偉そうなリアクションですみません。

Bon courage !!


S


20133月某日



件名:鎮魂の三月



S



お仕事お疲れさまです。



つまらないものを読んでいただき、有難うございます。

散文詩ですか。なるほど。確かにそんな感じもしなくもないですね。



ぼくの方は、このところ何故か気分が低下気味です。

春の訪れのせいかもしれません。

この季節は何となくいつもメランコリックになります。



それとも、日本の過去の歴史において、多くの命が失われた時期だからなのか・・・。



鎮魂の三月:

70年前の3月、硫黄島で約2万人の日本人が死地に赴いた。
そして同年310日の東京大空襲では約10万人が生きながら焼かれた。
2011
311日、東日本大震災で約2万人の人々が天に昇った。



お仕事のお邪魔をして済みません。



では、今日も勇気をふりしぼって出かけてきます。



小原

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件名:ものおもふ春



小原君、

春生まれのぼくは、そのせいかこの季節が好きなのですが(おそらくその切なさということがポイントなのでしょう)、毎年、この時節は最も精神的に不安定になりがちです(切なさをポイントとして愛惜しているのですから、ほぼ当然の帰結)。
で、結果そうなっています。Je me sens vaguement triste...

「鎮魂の三月」ほどの深刻なことではないのでしょうが、およそ今の心境は小原君のそれと酷似していると思います。

仕事にやみくもに集中するか、ドラマをこの上なく真剣に観るかが、目下、その MELANCOLIE からの脱出法。

ご参考まで。

S

20132月某日



件名: Vendredi Vingt-deux avec le Vin



Vin blanc とともに過ごしています。

遁走への希求。



ところで、小原君は、時としてトルストイ、ツルゲーネフ、ドストエフスキーを読みたくなりませんか?(ぼくの場合は邦訳か仏訳のものですが)。一部の昔の本邦のインテリ(坪内逍遙とか)が心酔したロシア文学。スラブ民族の怒涛の執筆力に圧倒されるという悦楽…。



S



20132月某日



S



おはようございます。如月も終わり、いよいよ弥生ですね。今朝はやけに暖かいです。



拒食とアルコールですか。困りましたねえ。今度お宅にお伺いして、何か美味いものでも作りましょうか? 



断酒は難しいですね。一緒に断酒会にでも通いますか? いやいや、それでは人生の楽しみが半減してしまう。やっぱり○○○か?いやいや、それも適度に嗜む程度にしないと。。。

今度一緒に飲みながら考えましょうか?



20133月某日



S



こんにちは。



身体は大丈夫ですか?

学生時代、Y君ともう一人の友達と三人で飲んでいて、何件目かの店の階段を降りる時、誰かが足を踏み外し、三人まとめて階段から転げ落ちたことを思い出しました。

お互い気を付けましょう。



ぼくも昨晩は自分ではさほど酔っていないつもりでしたが、帰りの電車あたりから帰宅後の記憶が断片的で、今朝家内に昨日のことを話したら、「それ全部昨日聞いた」と言われる始末。

そして今日は例によって二日酔いです。



今から外出です。

ああ、寝ていたい・・・。



ではまた。



小原



S



体調はいかがですか?

僕はその後、少し情緒不安気味になり、かなり自己否定モードになっていましたが、今日はやや回復しました。



こんな自分でも、いろんな苦悩があります。言わずもがなですが。



小原



20132月某日



件名: Vendredi vingt-deux



小原君、

人間は二十代をピークに衰え続けます。つまり退行期が最も長い生物です。そこで重要なのはこの衰えゆく期間をどう乗り切るかということになります(当年八十歳の渡辺淳一談、やや医学的な視点)。

所謂、アンチエイジングなどという一言では簡単に片付けられない、専ら宿命的な課題なのでしょう。



S

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件名: Vendredi Vingt-deux avec le Vin



小原君、

いつ買ったのか、まるで覚えていない未開封のワインが三本ほど転がっています。そういった意味で今日も厳しい一日になりそうです。



件名に du Vin ではなくて le Vin と定冠詞を用いているのは、実際のワインをまざまざと描き出すのを避け、ワイン一般、ワインというものから想起されるイメージを喚起したかったからなのかも知れません(そうした選択は瞬間的に行うのが常です)。またしても持って回った口調で申し訳ありません。


S

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S




夏目漱石は「I love you」を「月が綺麗ですね」と翻訳したそうです。



小原


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小原君、
こんばんは。

貴重な情報、ありがとうございます。

一方、
Фёдор Миха́йлович Достое́вский(ドストエフスキー)の
"La nuit blanche"...
その中の "pure et innocente" という表現(主人公が彼女 の佇まいを評した台詞)が、今考えると、ラブストーリーの常套句なのでしょうが、まだ若かった私には、そのフランス語の響きがことのほか印象的でした。

S

20131月某日



件名:まあいや、どうだって。



S



お疲れさまです。

腰の具合はいかがですか?



さて、本日のニュースで作家の安岡章太郎が亡くなったことを知りました。

彼はボクの好きな作家の一人です。

といっても、高校生時分に何冊か読んだきりですが。



中学の時、国語の教科書に載っていた彼の短編小説『サーカスの馬』。

その中で当時ボクの心にズドンと響き、以来ずっと頭から離れなかったフレーズが、

「まあいいや、どうだって」です。



「そんなとき、僕は窓の外に目をやって、やっぱり、(まあいいや、どうだって。)と、つぶやいていた」



という一節と、



「ひなたの縁台にふとんが干してあると僕はその上に寝転びながら、こうしてぽかぽかと暖まりながら一生の月日がたってしまったら、どんなにありがたいだろうと、そんなことを本気で念願する子供だった」



という一節に妙に共感し、それ以来、安岡章太郎という作家に大いに親しみを覚えるようになりました。

ただ、第三の新人の中では、当然ながら吉行淳之介が一番好きですが。遠藤周作はちょっとなあ・・・。



私小説の伝統を受け継ぐ作風でしたが、かの小林秀雄から、

「私小説はもういいよ、わかったから。これからは歴史を書けよ」、と言われたそうです。



この小林の言葉は、なんだか今の自分に言われているような気がしてしまいます(苦笑)。



そろそろ今日の商いも閉店でしょうか?



小原

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小原君、

こんばんは。



安岡氏のものは読んだことがありませんが、「まあいいや、どうたって」は印象的なフレーズですね。子供の時分に読んで、大人がこんなことを書いているんだ、と認識したら、それはやはり衝撃的なことなのだと思います。

私見ですが、私小説に関してはどうしても小説としての骨格の脆弱さが気になります。

結果、あまりその種の作品にふれてこなかったようなことです。



腰。歩けなくなったりはしていませんが、ある角度で激痛が走るので、一日中、そおっと動いています。そして、どうにも集中力が削がれています。



おっしゃる通り、もう閉店です。小原君は夕餉の時間では?

ご都合のよい折にご連絡ください。



S



20132月某日



小原君、おはようございます。

先日はいろいろとありがとうございます。非常に意義深い集会でした。ただ、その朝、服用した薬と飲み合わせが芳しくなかったものか、途中で気絶してしまい、失礼しました。

その後、郊外の知人宅に流連(いつづけ)ることとなり、今、帰りの電車です。今週ものんびりと始まりました。



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